地域を訪れる外国人観光客を知る
はじめに
一口に外国人旅行客といっても生活している環境や文化の違いによって好みや旅行中の行動は様々です。アジア人は買物好き、欧米人はアクティビティ好きというイメージは定着しつつあると思いますが、実際のマーケティングでは更に細かくターゲティングした戦略が求められます。例えば、2019年に台湾や香港から観光・レジャー目的で日本を訪れた旅行客の8割以上はリピーターです。初めて日本に来られる方は、日本らしい有名な観光地を訪れる傾向がありますが、訪日回数を重ねるにしたがって、前回とは違う体験を求めて行動範囲が広がることが知られており、リピーター向けの戦略も広く検討されています。
今回のコラムでは、「地域を訪れる外国人旅行客を知る」というテーマで、いつ、どのような人たちが、どの地域を訪れているのかデータから調べる例をご紹介します。
※本コラム内で利用しているデータは2019年11月以降のデータとなりますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、2020年3月以降多くの国で海外渡航制限の措置がとられており、2020年3月から現在までのデータは参考値となります。本コラム内の結果は、2019年度冬の傾向を表しています。(2021年1月時点)
冬の長野:アジアは軽井沢、オセアニアは白馬へ
冬に長野県を訪れた外国人旅行客の情報を調べました。以下は、アジアとオセアニア、それぞれの特徴をまとめた結果です。
アジア

ダッシュボード「都道府県別の動態概要」(長野県:アジア)
アジアの特徴
オセアニア

ダッシュボード「都道府県別の動態概要」(長野県:オセアニア)
オセアニアの特徴
アジアとオセアニアのデータを比較すると、それぞれの特徴がよくわかります。
まず言えることとして、訪問時期のピークが異なります。アジアは12月の来訪が多いのに対し、オセアニアは1~2月に来訪が集中しています。また、初訪日客とリピーターの割合が異なることも特徴的です。アジアはリピーターが多いのに対して、オセアニアは初訪日客の割合が高く6割以上を占めます。長野県内への滞在日数はどちらも日帰りが多いですが、オセアニアの方が滞在日数が長い傾向であることもわかります。
アジアからの旅行者の訪問先は、滞在率で見ると1位は軽井沢町、2位は長野市です。軽井沢町は年間を通してアジア圏の方々に人気です。宿泊率を見ると、長野市、軽井沢町が同率1位で、軽井沢町は長野市と比べて日帰りでの来訪が多いことが伺えます。
一方で、オセアニアはスキーで有名な白馬村が滞在率、宿泊率共に2位を大きく引き離しての1位です。これは白馬村の誘客力が高いという見方もできますし、県内での白馬村以外の市区町村への周遊が課題と見ることもできます。オセアニアで滞在率、宿泊率が2位の山ノ内町は雪景色の温泉をサルが楽しむ光景(スノーモンキー)が見られる地獄谷野猿公苑で人気を集めていますが、アジアでも滞在率4位、宿泊率3位にランクインしています。オセアニアで滞在率3位の小谷村は白馬村に隣接しており、スキー場を多く抱えることから白馬村と同じくスキー需要による来訪と考えられます。宿泊率3位の野沢温泉村も外湯巡りができる観光地として有名ですが、スキー場としてもオセアニアからの旅行客の人気を集めているようです。
滞在日数の長い白馬、2月に旅行者が増える長野市、初訪日客が多い山ノ内
オセアニアに着目して宿泊率の高い上位3町村を比較しました。
オセアニア

ダッシュボード「市区町村別の滞在者比較」(長野県:オセアニア)
最も滞在の多い白馬村は、2019年12月から2020年1月にかけて大きく増加し、2020年2月がピークとなっています。野沢温泉村でも2月が滞在、宿泊共にピークであることがわかります。一方で、山ノ内は2020年1月をピークに2月は滞在者が減少トレンドです。また、3町村の中で、最も初訪日客の割合が高いのが山ノ内であり、逆に野沢温泉では約6割がリピーターです。訪日経験による訪問場所の違いが伺えます。
オセアニアの旅行客の中でも、白馬、野沢温泉では半数以上が複数日滞在しているのに対し、山ノ内では7割以上が日帰りという違いがあることもわかりました。
このように市区町村ごとのデータを比較することで、県全体では見えてこなかった、各市区町村での傾向の違いが見えてきます。
まとめ
今回はデータから読み取れる来訪者の属性による訪問先の違いや、市区町村ごとの特徴をご紹介してきました。データから外国人旅行客の特徴を捉えるイメージを持っていただけたでしょうか。
データを見るポイントは以下の3点です。
ぜひ他の地域のデータも見てみてください。
参考:今回使用したデータ
おまけ:外国人旅行客が日本滞在中に支出するお金の内訳は?
日本の観光統計データサイトには旅行者の動きだけではなく、何にいくらお金を使っているのかがわかる旅行消費額のデータも掲載しています。今回比較したアジア各国は買物代の占める割合がとても高いのに対して、オーストラリアでは滞在期間が長くなるためか、宿泊や飲食、交通費にかける割合が高く、また、娯楽サービスへの支出もアジア各国よりも支出の割合が高いことがわかります。
ショッピング好きのアジアの軽井沢町への滞在率の高さ、アクティビティ好きのオセアニアの白馬村への滞在率の高さも納得です。

