一緒に訪問されている地域を知る

はじめに

地域への誘客や消費額を増やすための情報発信の高精度化やモデルルートのブラッシュアップのためには、旅行ルートの把握が欠かせません。ゴールデンルート、昇竜道など人気のコースはありますが、実際に地域を訪れる外国人旅行客はどのように移動しているのでしょうか。必ずしも地理的に近い県との関係性が強いとは限りません。交通や観光コンテンツの内容によっても旅行ルートは変わります。

今回のコラムでは、「一緒に訪問されている地域を知る」というテーマで訪日旅行のルートを見ることで、県外からの流入出や県内の旅行ルートを調べる例を紹介します。

※本コラム内で利用しているデータは2019年11月以降のデータとなりますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、2020年3月以降多くの国で海外渡航制限の措置がとられており、2020年3月から現在までのデータは参考値となります。本コラム内の結果は、2019年度冬の傾向を表しています。(2021年1月時点)

金沢市への流入経路:アジアは大阪、欧米豪は京都から

石川県を例にアジアと欧米豪の1日の訪日旅行ルートを調べました。

ダッシュボード「1日の旅行ルート」(石川県:アジア)

石川県を含む旅行ルートTOP5(アジア)

1位: 大阪市-金沢市
2位: 金沢市-京都市
   金沢市-白川村-金沢市
4位: 京都市-金沢市
5位: 金沢市-高山市

ダッシュボード「1日の旅行ルート」(石川県:欧米豪)

石川県を含む旅行ルートTOP5(欧米豪)

1位: 京都市-金沢市
2位: 金沢市-京都市
3位: 高山市-金沢市
4位: 大阪市-金沢市
   金沢市-大阪市
   金沢市-高山市

石川県内では鉄道でのアクセスのよい金沢市が他県との結びつきが最も強く、特に大阪、京都など関西圏との移動が上位に見られます。アジアでは金沢市への流入が最も多いのは大阪市であるのに対し、欧米豪では京都市からの流入出が最も多く、同じ関西からの流入でも、国・地域によって出発地が異なることがわかります。

金沢市は岐阜県とのつながりも強く、高山市や白川郷のある白川村へのルートも上位に見られます。特にアジアでは金沢市-白川村-金沢市といったルートも上位にあり、金沢を拠点に白川郷に観光に行っている様子もうかがえます。更にアジアでは富山から金沢への流入が見られるのも特徴的です。また東京都台東区からの流入も見られ、上野から北陸新幹線を使ってアクセスしていることも読み取れます。

アジアは大阪を基点に京都、奈良をトライアングルで周遊、欧米豪は高野山から奈良への流入も

奈良県を例に、アジアと欧米豪での周遊ルートの違い見てみました。

ダッシュボード「1日の旅行ルート」(奈良県:アジア)

奈良県を含む旅行ルートTOP5(アジア)

1位: 大阪市-奈良市-大阪市
2位: 京都市-奈良市-京都市
   大阪市-奈良市
4位: 奈良市-大阪市
5位: 京都市-奈良市

ダッシュボード「1日の旅行ルート」(奈良県:欧米豪)

奈良県を含む旅行ルートTOP5(欧米豪)

1位: 京都市-奈良市-京都市
2位: 大阪市-奈良市-大阪市
3位: 奈良市-京都市
4位: 奈良市-大阪市
5位: 大阪市-奈良市

奈良へは大阪もしくは、京都からの日帰りでの来訪が多いことがわかります。その中でも、石川県の例と同様に、アジアは大阪との結びつきが強く、欧米豪は京都との結びつきが強いことがわかります。これはアジアからの旅行者は関西国際空港からの入国が多く、大阪市を観光の拠点として移動していることが考えられます。

ルートとして最も多いのは大阪、京都との日帰りの動きですが、アジアでは大阪から出発し京都、奈良を巡って、大阪に戻ってくるルートも見られました。図で見てもトライアングルの形に線が結ばれているのが特徴的です。欧米豪の旅行者に比べ、日本国内での滞在日数も短いため、1日でより多くの観光地を巡っていると考えられます。

一方欧米豪では、京都、大阪からの日帰りでの来訪がほとんどです。最も多いのは京都からの日帰りでの来訪ですが、同程度大阪からの日帰りでの来訪もあり、京都、大阪での観光とセットで奈良を訪れている様子が伺えます。また、高野山のある和歌山県高野町からの流入も見られ、広域での流入もあることがわかりました。

まとめ

今回は他県との周遊状況に着目して観光ルートを調べました。市区町村の細かい粒度でのルートは、アンケート調査等では正確に回答を得るのは難しく、位置情報データだからこそ把握できる情報です。

旅行ルートを知ることで、現在のモデルルートにどれくらいの人が来ているのか、さらにはモデルルートと異なる動きをしている人はどんな人なのかを知ることができます。推測ではなく、実際にどの地域からの流入出が多いのか、ぜひデータを使って見てみてください。

参考:今回使用したデータ

  • 1日の訪日旅行ルート
  • おまけ:事前予約時のパッケージ商品利用は少ない?

    日本の観光統計データサイトには旅行の手配方法についての情報も掲載しています。今回調べた旅行ルートについて、モデルルートのブラッシュアップに活用できるというお話をしましたが、モデルルートはどのように活用するのがよいでしょうか。

    2019年の旅行の手配方法のデータを見ると、観光・レジャー目的の訪日客の72.6%が、団体ツアーや個人向けのパッケージ商品を使わず、個人で旅行を手配しています。

    パッケージの旅行商品とし開発するに限らず、個人手配客向けに、日本国内発着ツアー商品の開発や、旅行前の情報収集時におすすめルートとして提示することで、地域内での滞在時間を伸ばしたり、消費額を増やしたりすることができるかもしれません。